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Research

Research interest

現存する生物間相互作用にみられる社会的性質はどのように維持され、変化するのか、明らかにするべく研究しています. 顕著な協力的形質を示す動物を主な研究対象にしています.

個体の協力的形質を説明するために個体群の社会構造に特に着目しています.また環境変化に伴って

社会構造と個体の適応形質(社会行動・生活史)、さらに両者の関係がどのように変化するか、調べています.


ある社会構造の下で個体はいかに行動することができ、すべきなのか?個体による社会構造の形成・維持・変化の過程はどのようなものか?

急激な環境変化によって社会構造と社会形質はどのように変化するのか?

Study systems

自分では子を生産していない個体(ヘルパー)が他個体の子に向ける世話・養育行動をヘルピングと呼び、ヘルパーを含む繁殖システムを協同繁殖と呼びます. ヘルピングを示す動物種での野外実証研究とシミュレーション研究を行っています.

クリボウシオーストラリアマルハシ

本種の繁殖はヘルピングに強く依存していてヘルパーがいなければまず雛を巣立たせることができません. 社会構造として、入れ子状の群れ構造とゆるやかにまとまった血縁構造を示します.長期個体追跡データを用いて環境悪化に伴う社会構造とヘルピングの変化を探っています.

エナガ

形態に変異のある地域個体群間で行動形質にも変異があるのか、興味を持っています.

 

個体ベースシミュレーション

競争の構造がヘルピングの進化に及ぼす作用などを検証しています.

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協同繁殖研究の背景

鳥類種における協同繁殖

鳥類種でのヘルパーの初報告は1840年代のオーストラリア(Gould 1841)まで遡ります。協同繁殖では現在では全鳥類種のおよそ10%で知られていて、オーストラリアのユーカリ林とアフリカのサバンナに多く見られます。繁殖つがいにヘルパーを加えた3個体以上からなる協同繁殖群は繁殖が終わっても安定・緊密に維持されることが多く、個体数の多い群れを形成する種では鳥類としては最も複雑な社会システムを形成します。社会構造は多様で、血縁関係のある個体からなる家族群を形成する種と血縁のない個体からなる群れを形成する種が存在し、群れの空間的広がり・排他性、群れ内の繁殖機会の不平等さ(繁殖の偏り)の程度などにも違いが見られます(下図)。利他的な養育行動が多様な社会システムにみられるのはなぜか?共通のメカニズムがヘルピングの進化を促してきたのか?発達した社会行動の進化と社会システムの多様化はどのような関係にあるのか?といったことが研究上の大きな課題です。

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研究初期から疑問に対する解答は得られたのか?

1960-70年代に鳥類の協同繁殖研究に血縁選択が導入されて以来(Brown 1975)、ヘルピングが本当の意味で利他的なふるまいなのか、近年まではっきりしていませんでした。他者の繁殖の手伝いがまわりまわって自分の繁殖成功に結び付く利己的な行動であると考えられている種も存在します。現在では、ヘルピングは血縁選択によって説明できる利他行動である場合が多い(Cornwallis et al. 2010; Green et al. 2016)ことが分かっています。

また、手伝う相手が血縁であっても自分の遺伝子を直接残せるわけではないので、ヘルピングは自分で繁殖する機会がない、繁殖能力が低い個体が「仕方なく」行う、「しないよりはまし」な行動である場合が多いという意見が優勢でした。ところが、識別個体を数十年の長期にわたって追跡する研究が主流になるにつれて、一生の内ある時期にヘルピングを行うことは必ずしも次善の策とは言えないことを示唆する事例も見出されています(e.g., Wang et al. 2018)。また理論的にも、繁殖個体よりもヘルパーが有利になる条件が存在しうることが指摘されています(e.g., McLeod & Wild 2014)。総じてヘルピングが次善策なのか最善策なのかはまだはっきりしていないと言っていいでしょう。

 

その他の未解決問題

協力的行動が発達しているからといって個体間の競争的関係がなくなるわけではありません。適応進化の観点から協力を理解するには競争関係を理解することがむしろ不可欠です。ヘルピングの遺伝子が個体群内に広まるには、血縁を手伝う行動ばかりではなく手伝ってもらう側の繁殖を追求する行動も不可欠です。鳥類のヘルパーは基本的に自分でも繁殖可能です。血縁に向けられる利他的なヘルピングと繁殖機会の追求が同居している(e.g., メスによる繁殖追求傾向とオスによる利他行動傾向、ヘルパー間の繁殖競争)のが協同繁殖であり、協力的行動と競争的行動の共進化について、多くの課題が残されています。

 

意外なことに鳥類の多くの系統で協同繁殖は祖先的形質だと推定されています(Ligon & Burt 2004; Cockburn 2020)。このことは進化年代の古さとその起源の探求の困難さを示しています。協同繁殖の研究は野外調査を行いやすい半乾燥地帯や疎林といった生息地に偏りがあり、例えば新・旧大陸ともに熱帯雨林での研究は進んでいません。協同繁殖の進化学的研究にはこのような偏りを解消する必要があります。東アジアでの研究も十分ではありません。

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